保育園向け | 採用・定着に強い賃金制度導入ガイド

本コラムは、保育園(認可保育園、認証保育園、小規模保育園、企業主導型保育園など)の園長先生・経営者・人事担当者の皆様が、自園の賃金制度や人材管理上の課題を見直す際にご活用いただけるよう、保育業界ならではの実態や特徴を織り交ぜながら編集した内容となっています。
子どもの健やかな成長を支え、質の高い保育を提供するためには、スタッフ(保育士・保育補助・栄養士など)を安定的に確保・定着させることが欠かせません。
ぜひ最後までご一読ください。
保育園の賃金制度に関する主な課題
1. 最低賃金の上昇と収益圧迫
保育士や保育補助などの職種において、比較的低い水準で賃金を設定している園がまだ多いのが現状です。近年の最低賃金の引き上げは、スタッフの生活を改善する一方で、保育園側から見ると収益を圧迫する大きな要因となります。
とりわけ、保育料が自治体により規定されている認可保育園や、園児数に見合った保育士配置が義務付けられる小規模保育では、保育料収入に大きく依存しているため、簡単に料金を上げられず、最低賃金アップの影響をもろに受けやすいのが実情です。
解決のポイント
- 公定価格や補助金の活用
保育士処遇改善加算や保育補助者の人件費補助など、国や自治体の制度を最大限活用し、人件費アップに対応できる仕組みを作ります。 - 業務効率化の推進
保育士が事務作業や書類に追われず、子どもとの関わりに専念できるよう、ICTシステム導入や書類簡素化を図ります。結果として保育の質を高めながら、スタッフの負担減によりコストを吸収しやすくなります。 - 経営の多角化・拡充
企業主導型保育や一時預かり、子育て支援イベントの開催など、追加の収益源を確保することで、最低賃金上昇にも対応しやすい経営体制を整えます。
2. 成果や業績との連動性の不足
保育現場は、子どもの成長や保護者の満足度が重要視される一方、売上や明確な数値指標を設けにくい業界です。多くの場合、保育士は固定給で運用されており、日々行っているきめ細やかな保育や家庭支援が、給与に直結していない現状があります。
優秀な保育士やリーダー的存在のスタッフが、こうした努力の成果が評価や昇給に反映されないと感じると、モチベーションの低下につながりやすくなります。結果として、保育の質や離職率に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
解決のポイント
- 保育の質や保護者満足度を測る指標の設定
「子どもの発達・成長の記録」「保護者アンケート」「園内事故やけがの防止率」など、保育ならではの定量・定性指標を可視化し、それに基づいて評価や報酬を設定します。 - チーム(クラス・学年)単位のインセンティブ
個人だけでなく、クラス全体や園全体の達成度を評価する仕組みを導入し、スタッフ同士が協力しやすい環境を作ります。 - 工夫やアイデアを評価
新しい保育プログラムの考案や、保護者コミュニケーションの改善など、スタッフの創意工夫を積極的に認め、表彰やインセンティブを与える文化を育成しましょう。
3. 正社員と非正社員の待遇格差
保育園では、正社員の保育士とパート・アルバイトの保育補助が混在しているケースが多いです。人手不足を補うために非常勤スタッフを多数雇用している一方で、「仕事内容に大きな差はないのに、給与や福利厚生で大きな差がある」「非正社員には研修やキャリアアップの道が用意されていない」という不満が生じることがあります。
結果として、優秀な非常勤スタッフが早期に辞めてしまい、慢性的な人手不足の再生産に陥るケースも少なくありません。
解決のポイント
- 業務範囲・スキルベースでの報酬設計
非正社員であっても、担任や補助担任としてクラス運営に積極的に関わるスタッフには賃金を上乗せするなど、役割・スキルに応じた処遇を目指します。 - 正社員登用制度や研修支援
パート保育士が資格取得(保育士資格・幼稚園教諭免許状など)に挑戦する際の費用補助や、正社員登用ルートを明確化することで、非正社員のモチベーションを高めましょう。 - 福利厚生の一部適用
非正社員も園内研修や行事への参加、福利厚生制度(産休・育休、職員向け保育サービスなど)を一定程度利用できるようにし、「保育チームの一員」として安心して働ける環境を整備します。
4. 昇給・昇格基準の不透明さ
保育園では、園長や主任以外の保育士は年功序列的に給与が上がる仕組みが残っていることが多く、「どのようにすれば昇給・昇格できるのか」が不透明なケースがあります。結果として、若手スタッフが「頑張っても評価されない」「先輩と同じ給料がもらえるのは何年後なの?」と感じ、将来性を見いだせず離職してしまうリスクがあります。
解決のポイント
- 評価制度とキャリアステップの可視化
「リーダー保育士」「主任保育士」「副園長」などのポジションごとに必要なスキルや役割を明確に定義し、それに応じて昇給や役職手当が変動する仕組みをスタッフ全員に公開します。 - 定期的な面談とフィードバック
半年や四半期に1回、園長や主任と1on1面談を実施し、スタッフの成長や課題を共有することで、昇給・昇格への道筋を具体的に示します。 - 公正性の確保
主観的な評価に偏らないよう、クラス担任や保護者からの声、園長・主任の複数視点を組み合わせ、多角的に保育士を評価するプロセスを整備しましょう。
5. 業界内での賃金水準の競争力不足
保育士の人手不足は社会問題化しており、行政や法人が保育士確保に向けて様々な取り組みを行っています。特に都市部では競合する保育園が多く、少しでも給与が高いor働きやすい条件の園へ人材が流れる傾向が強まっています。
また、保育士資格を持った人材が企業内保育所や高待遇の私立園などへ転職する例もあり、賃金水準が低い園は採用活動に苦戦するリスクが高くなります。
解決のポイント
- 市場調査と柔軟な賃金設定
同地域の保育園や公立園の給与水準、保育士処遇改善加算の活用状況などを把握し、競合に見劣りしない程度の賃金を検討します。 - 非金銭的魅力のアピール
「園の保育理念」「実習生の受け入れや研修制度の充実」「残業が少ない」「職場の人間関係が良い」など、保育士にとって働きやすい環境をアピールすることで差別化を図ります。 - 資格・スキルのレベルアップ支援
保育者として成長できる環境が整っていれば、多少の賃金差を補う大きな魅力となります。セミナー参加費用や外部研修費の補助など、学習意欲をサポートする制度を拡充します。

保育園の人材面での課題
1. 人材確保の難航
保育士資格を取得しても、労働条件や福利厚生を理由に他業界へ転職する人材も多く、保育園の人材確保は年々厳しさを増しているのが現状です。特に乳児保育を行う小規模園では、年齢・配置基準の制約から保育士数を確保しなければならず、採用難航が直接的に定員割れリスクに繋がります。
また、地方では賃金水準が低めであり、都市部では家賃や物価が高い割に給与が低めという声も多く、保育士が他県へ流出する事例もしばしば見られます。
解決のポイント
- 処遇改善の具体化
給与や賞与のアップだけでなく、キャリア形成や働きやすさの向上なども含めた処遇改善プランを提示し、求人票や面談で明確に伝えます。 - 職場見学やインターンシップ
採用候補者に実際の保育現場を見てもらい、園の雰囲気や保育士の働き方を理解してもらうことで、早期離職の防止とマッチングの精度向上が期待できます。 - SNSや広報活動の強化
保育士向けの専門サイトやSNSを活用し、園の保育方針や行事の様子、スタッフの声を発信し、求職者の興味を引き付ける戦略が重要です。
2. 従業員のモチベーション低下
保育士は体力的にも精神的にも負担が大きく、子どもとの関わりに加えて、保護者対応や行事準備など付帯業務が膨大です。さらに給与や評価が改善されないままだと、疲労感と不満が重なり、モチベーションが低下するケースが多く見受けられます。
一方、保育士は子どもの成長をやりがいに頑張っている面も大きいため、このやりがいと処遇改善をバランスよく取り扱わないと、バーンアウト(燃え尽き症候群)につながりやすいのが特徴です。
解決のポイント
- インセンティブ・表彰制度の導入
子どもの発達支援策や保護者コミュニケーションで成果を上げた職員を評価・表彰し、努力が形になる仕組みを整備します。 - 定期的なカウンセリング・面談
園長や主任がスタッフ一人ひとりと定期的に話をする場を設け、悩みやストレスを早期に発見し、サポートを検討します。 - チームビルディングと情報共有
クラスや学年の枠を超えたレクリエーションや職員間ミーティングを活発にし、互いの負担を共有・軽減できる環境を作りましょう。
3. 若年層の定着率の低さ
保育士として就職しても、1~3年で離職する若手が多いことは業界内でも大きな課題です。専門学校や大学で学んだ知識と実際の保育現場のギャップ、長時間労働や低賃金、保護者対応の難しさなどが重なり、「理想と違う」と感じて退職してしまうケースが後を絶ちません。
解決のポイント
- キャリア形成の具体化
「3年目でリーダー保育士を目指す」「5年目で主任補佐などの役職を検討できる」など、若手が将来のイメージを持てるように、明確なロードマップを提示します。 - メンター制度の充実
経験豊富な保育士が新卒や若手をフォローする仕組みを整え、定期的なフィードバックや励ましを行うことで、孤立を防止しスムーズな成長を促します. - 研修や勉強会の拡充
保育プログラムや子どもの発達心理、保護者対応などを学べる研修を定期的に開催し、若手が自信を持って保育に取り組めるようサポートします。
4. スキルアップの意欲不足
保育業界では、忙しい日常業務に追われているうちに、新しい保育プログラムや先進的な教育法に触れる機会を得にくい現場もあります。給与に反映されにくいと感じると、自己研鑽のモチベーションが下がりがちです。
一方で、保育士の専門性を高めることで、園の特色を打ち出し、保護者からの信頼を得られる強みが生まれます。園としても、スタッフのスキルアップを支援する意義は大きいと言えます。
解決のポイント
- 資格手当や研修費用補助の導入
保育士資格に加え、幼稚園教諭免許状やベビーシッター資格、発達障害児支援などの専門講座を受講する際に、手当や補助を行い、学習コストを下げます。 - 社内研修・勉強会の開催
子どもとの遊びや発育理論、保護者対応など、テーマごとの勉強会を園内で定期的に実施し、スキルアップを習慣化します。 - キャリア・賃金の連動
一定の研修を修了したり、認定資格を取得したりした場合には昇給や手当増を行い、努力が報われる仕組みを作りましょう。
5. 非正社員の活用不足
多くの保育園では、朝夕の延長保育やパートタイム勤務の保育士が欠かせません。しかし、こうした非常勤スタッフの役割や評価基準が曖昧だと、非正社員が本来の能力を充分に発揮できないまま離職してしまうケースが起きがちです。
解決のポイント
- 役割分担の明確化
担任保育士の補助やフリー保育士としての動線管理、保育補助の業務範囲などを明示し、期待するスキルに応じた時給設定や手当を用意します。 - 教育機会の平等化
正社員だけが受講できる研修・勉強会をパートスタッフにも開放し、本人の意欲次第でスキルアップできる仕組みを整えます。 - 長期契約・登用制度
非正社員でも継続して意欲を持って働くスタッフには、正社員登用や長期契約のルートを明確に用意し、安定した環境を提供します。
6. 管理職の育成不足
保育園における管理職(園長・主任保育士など)は、人事評価や職員のメンタルケア、保護者対応、行政とのやり取りなど、多岐にわたる業務を担います。しかし、現場での保育経験は豊富でも管理職としての研修機会が少ないと、適切なリーダーシップやチームビルディングが難しくなります。
解決のポイント
- 管理職研修・リーダーシップ養成
外部講師や自治体主催の研修を活用し、人事評価や組織マネジメント、コミュニケーションの基礎を学ぶ場を設けます。 - 副主任やリーダー制度の活用
園長や主任だけに業務が集中しないよう、副主任やクラスリーダーなど複数の階層を用意し、チーム運営を分散します。 - 管理職の評価指標整備
「職員定着率」「保護者満足度」「事故防止」「園内研修の実施回数」など、管理職の役割に即した成果を指標化し、適切な評価・報酬に結び付ける仕組みが必要です。
7. 現場のチームワークの欠如
保育園はクラス編成や年齢別保育、行事ごとなど、多数のスタッフが横断的に関わる仕事が多いです。担任・副担任・フリー保育士、給食担当、事務スタッフなど、連携が不十分だと子どもの安全管理や保育の一貫性に影響が出るリスクがあります。
解決のポイント
- 全園的な目標の共有
「けがゼロ」「園全体で子ども一人ひとりの個性を伸ばす」「保護者とのコミュニケーション向上」など、保育方針を明確に掲げ、スタッフ全員が同じ方向を向けるようにします。 - 定例ミーティングの徹底
朝夕の打ち合わせや週次ミーティングを設け、クラスでの出来事や課題、保護者対応の情報を速やかに共有し、チームとして保育を進められる体制を整えます。 - チームビルディング行事
年度初めの研修や懇親会、職員旅行などで人間関係を深める機会を作り、スタッフ同士が助け合える環境を醸成しましょう。
8. 長時間労働の常態化
保育現場では、開園時間が長く設定されていたり、行事前の準備や書類作成でスタッフが残業や持ち帰り仕事を強いられるケースが少なくありません。長時間労働が続くと、スタッフが疲弊し、保育の質にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
解決のポイント
- シフト管理と負担分散
早番・遅番や延長保育を担当するスタッフの配置を適切に計画し、特定の保育士に負担が集中しないよう気を配ります。 - ICTの活用・事務作業の効率化
保育記録や連絡帳のデジタル化、保護者コミュニケーションアプリの導入などで書類作業を減らし、定時内で業務を完結しやすくします。 - 行事の見直し・役割分担
過剰な装飾や準備に工数をかけすぎていないか点検し、職員間で責任を分担して短時間で行事準備を終えられる工夫を取り入れます。

保育園向けに採用・定着に強い賃金制度設計のポイント
1. 成果や業績に応じたインセンティブ制度の導入
保育においては、子どもの成長や保護者の満足度、事故防止など、数値化が難しい面がありますが、定性評価と定量評価を組み合わせれば成果をある程度可視化できます。こうした指標に基づくインセンティブを設けると、スタッフの意欲とチームワークが高まります。
- クラス単位・園単位の目標設定
保護者満足度アンケート、子どもたちの楽しみ度調査、職員間の連携度などを指標化し、達成度に応じてボーナスや特別休暇を付与すると、一体感が生まれやすいです。 - 個人の取り組み表彰
新しい保育プログラム、イベント企画、トラブル対応の改善事例など、個人の創意工夫を評価して表彰・報奨金を支給する制度を導入します。
2. スキルや資格に応じた手当の充実
保育園では、保育士資格や幼稚園教諭免許、さらに音楽療法士や発達支援に特化した資格など、多様な専門性が必要とされます。こうしたスキルを磨く意欲を高めるために、資格手当や研修参加の補助を充実させることが効果的です。
- 資格手当の設定
保育士資格を持つ人は月○円、幼稚園教諭免許を併せ持つ人はさらに○円上乗せなど、難易度や業務貢献度に応じて手当を差別化します。 - 研修費用補助・休暇支援
外部研修やセミナーに参加する場合の費用補助、研修参加のための特別休暇付与など、スタッフが学びやすい環境を用意しましょう。
3. 明確なキャリアパスと連動した昇給制度
「担任保育士→リーダー保育士→主任→園長」という管理職コースだけでなく、「障がい児保育の専門家」や「乳児保育のスペシャリスト」など、専門分野を究めるキャリアコースを並行して設ける方法があります。これによって多様な働き方を実現しながら昇給につなげられます。
- 複線型キャリアモデル
マネジメント志向と専門職志向の両軸を示し、それぞれの職位で必要なスキルや勤務年数を条件として明示します。 - 昇給基準の透明化
「主任に昇格すると月給がいくら上がる」「特定の専門資格を持つと手当がいくらつく」など、スタッフが具体的に想像しやすい形で提示しましょう。
4. 地域の市場水準を考慮した競争力ある賃金設定
保育士不足が深刻化する中、地域や自治体によって独自の保育士補助金が出るケースもあるため、周辺の情報収集が欠かせません。少しでも高い給与を提示できれば採用面で有利になりますが、それが難しい場合は、働きやすい環境や教育制度など、非金銭的メリットも併せて打ち出す戦略が重要です。
- 定期的な相場調査
近隣の保育園や公立保育所の給与テーブルを調べ、自園との格差が大きく開いていないかチェックします。 - 自治体の支援制度を活用
家賃補助や奨学金返済支援など、自治体が保育士に対して行っているサポートを紹介し、自園のスタッフが利用しやすいよう情報提供を行います。
5. 福利厚生の充実による生活支援
保育士の仕事は長時間労働や持ち帰り業務などが多いとされ、ワークライフバランスの維持が難しいとの声が上がっています。福利厚生を充実させ、健康や生活面での支援を強化することで、スタッフの定着とモチベーションアップが期待できます。
- 育児支援・時短勤務制度
子育て中の保育士が働きやすいよう、子連れ出勤や時短勤務、職員用保育スペースなどを整えると、女性の長期就業を後押しできます。 - 心身のケア体制
定期健康診断やメンタルカウンセリング制度、休暇の取得促進などにより、スタッフの健康を守り、安心して働ける職場を作ります。
6. 従業員の意見を反映した柔軟な制度設計
保育園は園長や主任と現場スタッフの距離が比較的近い一方、繁忙期にはコミュニケーション不足に陥りがちです。スタッフの声を拾い上げ、賃金制度や勤務環境に素早く反映できるよう、定期的なアンケートやヒアリングを実施して、改善に役立てましょう。
- アンケートや面談によるフィードバック
賃金や評価、職場環境、保護者対応など多角的な質問を定期的に行い、スタッフのリアルな意見を収集します。 - 試行的な導入と検証
新たなインセンティブ制度やシフト設計を一部クラスでテスト導入し、効果や課題を分析してから全体に展開する方法が有効です。
7. 長時間労働の是正と時間外手当の適正支給
行事や保護者対応など、保育士は時間外勤務が発生しやすい職種です。適正な残業代を支給しつつ、できるだけ長時間労働を抑制する施策を進めることが、スタッフの定着と保育の質を両立させるポイントになります。
- シフト管理の徹底
早番・遅番の割り振りを工夫し、同じスタッフに負担が集中しないように計画します。保育士の人数に余裕がない場合は、延長保育用のパートスタッフを追加雇用するなど対策を検討します。 - ICT化による事務作業削減
連絡帳アプリや保護者向け写真共有システムなどを導入し、手書き作業や時間外対応を減らす仕組みを作ります。 - 行事準備の効率化・役割分担
過度に凝った装飾や演出を見直し、スタッフ間で役割を分担しながら短時間で行事を仕上げる運用を取り入れましょう。
効果的な賃金制度導入のステップ
以下では、新しい賃金制度を設計し、保育園で導入・運用して定着させるまでの具体的な流れをご紹介します。

ステップ1:自園の現状分析
- 経営理念、ビジョン、人事戦略の確認
- 「子どもの主体性を育む」「地域との交流を大切にする」など、園の方針と整合する賃金制度の方向性を明確にします。
- どのような保育士を求め、どのように育てたいか、人事戦略とリンクさせて考えます。
- 人材の現状分析
- 年齢構成・スキル構成: 若手が多いのか、中堅・ベテランの比率はどうか。保育士資格や幼稚園教諭免許の所持率などを確認。
- 離職率・採用実績: 賃金や働き方が原因でスタッフ確保が難しくなっていないかを把握します。
- 賃金水準の分析
- 同地域・同業種との比較: 私立・公立保育所や他法人運営の園の給与テーブルを調べ、自園の強み弱みを整理。
- 地域平均との比較: 他業界(飲食店、塾講師など)より保育士の時給や月給が大きく下回っていないか確認します。
- 従業員満足度調査の実施
- 賃金制度や評価制度について、スタッフが不満に思っている点や要望を把握し、制度改定に役立てます。
ステップ2:賃金制度の設計
- 手当の検討
- 役職手当・専門手当: 主任・リーダー保育士、英語やリトミックなど特技を活かす保育士向けの手当を設定。
- 採用を考慮した手当: 経験豊富な人材を確保するために、特定の資格やスキルを持つ人に特別手当を導入。
- 賃金テーブルの作成
- 各等級・職位ごとの賃金レンジを定め、昇給や昇格時に具体的な給与アップ幅をスタッフが把握できるようにします。
- 現行の給与体系との整合を図り、移行期間の混乱を抑えます。
- 昇給・昇格基準の設定
- 若年層への早期投資: 入職後1~3年は能力が伸びやすい時期なので、昇給カーブを高めに設定して離職を防ぎます。
- 複線型キャリアパス: マネジメントコースと専門職コースを並行して用意し、それぞれの到達点を示す。
- インセンティブや成果給の設定
- チーム(クラス・学年)評価: 事故ゼロや保護者アンケート評価の向上などを目標に、達成度に応じた報酬を支給。
- 個人の取り組み評価: 行事のアイデアや日々の保育活動で突出した工夫を行ったスタッフを表彰し、インセンティブを付与します。
ステップ3:賃金制度の導入・運用
- 制度導入の説明会
- 目的とメリットの共有: 「保育の質向上」「スタッフのキャリア形成」「処遇改善」など導入の狙いを丁寧に伝える。
- 質問対応と情報提供: 新制度に関するQ&Aを作成し、スタッフがいつでも確認できるようにしておきます。
- 運用ルールの明確化
- ガイドライン整備: 昇給や評価スケジュール、インセンティブの算定方法などを文書化し、周知徹底を図ります。
- 管理者研修の実施: 主任やリーダー保育士が評価や面談スキルを学び、公正かつ円滑に運用できるようにします。
- 定期的な見直し
- モニタリングの実施: 導入後の離職率、採用数、保護者満足度などを継続的にチェックし、問題点を把握。
- 柔軟な調整: 国や自治体の補助金制度、園児数増減、スタッフの声などを踏まえ、必要に応じて給与テーブルや手当をアップデートします。
- 従業員の意見を反映: アンケートや面談結果をもとに制度を改善し、スタッフが納得感を持てる仕組みを常に目指します。
ステップ4:効果測定
- 定着率の推移
- 賃金制度導入前後で、若手・中堅・ベテラン保育士や補助スタッフの離職率がどの程度変化したかを比較し、制度の効果を定量化します。
- 従業員満足度調査
- 新制度への満足度や具体的な改善要望を聞き取り、今後の見直しに繋げます。
- 採用応募者数・質の変化
- 園の処遇改善や制度整備が認知され、応募者数が増えたり、質の高い人材が集まっているかを観察します。
- 保育の質・保護者満足度の変化
- スタッフの定着で保育の安定性が向上し、結果的に保護者の評価や園児の満足度がアップしているか確認します。
- 定性的なフィードバックの活用
- 園長、主任、現場保育士や保護者からの生の声を収集し、制度が現場でどのように受け入れられ、活用されているかを把握。必要に応じた修正を行います。
成功事例とその効果
事例1:処遇改善加算を活用して賃金水準をアップ
- 園の背景:
小規模保育園「すくすく保育」では、周辺地域に競合園が多く、若手保育士が給料の低さを理由に離職しがちだった。定員割れ寸前になる月もあり、経営が不安定だった。 - 取り組み:
- 処遇改善加算の取得・拡充
要件を満たすようシフト体制・職員配置を再検討し、加算対象となるスタッフの拡大を目指して管理体制を強化。 - 資格取得支援と手当の導入
保育士資格を持たない補助スタッフが資格取得を目指す際の受講料補助、一時金支給、合格後の昇給を明文化。 - 昇給基準の明確化と周知
勤続年数だけでなく、研修受講や園内研修の積極参加も昇給要素に加え、スタッフに周知徹底。
- 処遇改善加算の取得・拡充

成果
- 賃金水準が近隣園と同等以上になり、若手保育士の離職率が大幅に低下。採用でも応募数が増加。
- 資格取得支援の制度を活用し、補助スタッフ2名が保育士資格を取得。人的リソースが増えたことで、行事や延長保育の余裕が生まれた。
- 保護者から「スタッフの顔ぶれが変わらないので安心」と高評価を得、園児の定員割れが解消。
事例2:チーム目標インセンティブで保育の質を向上
- 園の背景:
大規模私立保育園「スマイルキッズ」。担任とフリー保育士、栄養士や事務スタッフを合わせて30名以上が在籍するが、クラス間の連携不足やスタッフの疲弊が目立ち、子どもの発達支援や保護者との連携が課題だった。 - 取り組み:
- クラス・学年単位の目標設定
「転倒・けがゼロ」「家庭との連絡帳のスムーズ化」「子どもの自主性を伸ばす活動」などを可視化し、達成度をチームで共有。 - インセンティブ・表彰制度
月次で達成度をチェックし、優秀なクラスや活動事例を表彰。金銭的ボーナスや追加休暇をチーム全体で獲得できる仕組みを作った。 - 情報共有の強化
朝礼や週次ミーティングで取り組みの進捗を報告し合い、他のクラスの事例を積極的に学べる体制を整備。
- クラス・学年単位の目標設定

成果
- チーム単位でのゴール意識が芽生え、保育の事故やヒヤリハット件数が減少。
- スタッフ同士が「どうすれば達成できるか」を協力して考える雰囲気が生まれ、保護者満足度が向上。
- インセンティブや表彰を通じ、クラス全員が達成感を得られるようになり、モチベーションがアップ。離職率の低下に繋がった。
保育園向けの採用・定着に強い賃金制度のまとめ
少子化が進む中でも保育の質や現場の人手不足は大きな課題であり、保育園における人材確保と定着は喫緊の問題となっています。その解決に向けて、賃金制度はスタッフのモチベーションと働きやすさを支える重要な要素です。本コラムで取り上げたポイントをもう一度振り返りましょう。
- 最低賃金の上昇や処遇改善加算への対応
補助金や加算を活用しながら、スタッフへの適切な処遇改善を図る。 - 保育の成果(子どもの成長・保護者満足)を評価に繋げる
数字で示しにくい保育の質を指標化し、チーム・個人の両面でインセンティブを設ける。 - 正社員と非正社員の格差是正
スキル・役割に応じた報酬設計や登用制度で、意欲ある非正社員を長期戦力化する。 - 明確な昇給・昇格基準とキャリアパス
管理職コースと専門職コースを並行して示し、スタッフが将来像を描きやすい環境を整備する。 - 地域・業界相場を考慮し、競争力ある賃金・福利厚生を提示
賃金だけでなく、保育理念や研修体制など総合的に魅力をアピールする。 - 経営戦略と連動した柔軟な制度設計
常にスタッフの意見や行政の方針を取り入れ、制度をアップデートする姿勢が大切。
保育士の待遇改善や職場環境の向上は、結果的に子どもたちの健やかな成長や保護者の安心・満足につながります。賃金制度はゴールではなく、保育の質向上を支える手段として位置づけつつ、適切な運用と見直しを続けていきましょう。ぜひ本コラムを参考に、スタッフが「この園でずっと働きたい」と思えるような賃金制度と環境づくりにチャレンジしてみてください。
投稿者プロフィール

- 中小企業の経営者に向けて、人事制度に関する役立つ記事を発信しています。
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