【人事担当者必見】賃金制度における積み上げ方式と洗い替え方式について解説
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賃金制度における積み上げ方式と洗い替え方式について解説
コロナ禍で打撃を受けた多くの経営者は、毎年の業績に応じて人件費を変動させることを検討しているでしょう。賃金制度を設計する際、企業の業績や社員の評価に基づく適切な方法を選択することが肝心です。この記事では、賃金制度の積み上げ方式と洗い替え方式について説明し、それぞれの特徴と導入時の注意点を詳細に検討します。
積み上げ方式とは
積み上げ方式は、基本給に毎年の評価に応じた昇給を加えていく給与計算方法です。
この制度では、評価に基づいて給与が段階的に増加するため、従業員は自身のキャリア成長を実感しやすく、モチベーションが高まります。長期にわたる貢献を評価する企業にとって、この積み上げ方式は特に効果的です。さらに、評価が直接給与に反映されることで、社員の努力が適切に報いられる体系となっています。
評価が低くても昇給が保証されることが多いため、企業の成績が下がっても人件費が増加するリスクが生じます。このため、積み上げ方式には安定した経営基盤が求められ、評価システムの設計が極めて重要です。適切な評価基準を確立し、評価と給与が一致するような運用が必要です。
メリット
1. 社員のモチベーション向上
給与が評価に応じて増加するため、社員は自己成長と努力が給与に反映されていると感じることができます。これにより、仕事に対するモチベーションが向上し、パフォーマンスが高まります。特に若手社員にとって、キャリア成長を感じられる魅力的な制度です。
2. 長期的な貢献を評価できる
積み上げ評価方式は、短期的な成果だけではなく長期的な貢献も評価するため、一貫して高い成績を収める社員にとって有益です。企業にとっても、社員の長期的な貢献を評価し、離職率を低下させる効果があります。
3. 制度の透明性が高い
評価結果が昇給に直接影響するため、評価制度が適切に管理されていれば、その制度は社員にとって透明で分かりやすいものになります。これは社員の信頼を高めることにも繋がります。
4. 給与の予測が容易
評価基準が明確な場合、将来の昇給額を予測しやすくなります。これにより、社員はキャリアプランを立てやすくなり、企業にとっても予算管理が容易になります。
5. 組織の一体感を促進
公正な評価と昇給が行われることにより、社員間の健全な競争が促されます。これは組織全体のパフォーマンス向上を促し、チームワークの強化にも貢献します。
デメリット
1. 人件費の増加リスク
積み上げ方式においては、評価にかかわらず定期的な昇給が行われることが多く、業績が低下しても人件費が増えるリスクが伴います。特に不況時には、企業の財務に重大な負担をもたらす可能性があります。
2. 評価と処遇の不一致
評価制度が適切に管理されていないと、評価と給与の不一致が生じることがあります。これにより、社員の不満が増加し、制度に対する信頼が損なわれる可能性があります。したがって、評価基準の再検討と運用の改善が求められます。
3. 改善が難しい社員の処遇
評価の低い社員にも昇給が行われる場合があり、その結果、業績が伸び悩む社員の改善が困難になることがあります。これは、低評価の社員が組織内に留まり続けることで、全体の生産性が低下するリスクをもたらす可能性があります。
4. 制度設計が複雑化
積み上げ方式の導入に際しては、評価基準や昇給の幅の設定が複雑化する可能性があります。中小企業においては、評価制度の管理が困難で手間がかかることがしばしばです。そのため、適切な設計と運用のためのサポートが必要不可欠となります。
5. モチベーションの二極化
積み上げ評価方式は、高評価の社員には有利ですが、低評価を受ける社員には不利になる傾向があります。これにより、評価が低い社員はモチベーションが下がり、最悪のケースでは退職に至ることも考えられます。
洗い替え方式とは
洗い替え方式は、過去の給与や昇給の履歴に拘束されることなく、各回の評価結果に基づき給与額を決定する評価報酬システムです。
この方式により、評価結果が給与に直接反映され、評価の透明性と柔軟性が向上します。たとえ前年度の評価が低かった社員も、その後の成績改善によって給与の大幅な増加が期待できます。企業にとっては、社員の成績を給与に迅速に反映させることが可能であり、業績の変動に素早く対応することができるので、人件費の効率的な管理が可能です。また、社員の努力と成果がすぐに給与に反映されるため、短期的な成果を重視する企業にとって理想的な方式と言えます。
一方で、給与が評価に直接連動しているため、社員の収入が不安定になり得るという問題があります。特に、安定した収入を望む社員や、将来設計を考慮している社員にとっては、この不安定性がモチベーションを低下させる可能性があります。そのため、パフォーマンスベースの報酬制度を採用する際は、評価基準を明確に定め、社員への十分な説明が不可欠です。
メリット
1. 評価の柔軟性が高い
洗い替え方式により、過去の評価に囚われず、最新の評価結果を基に給与が決定されるため、社員のパフォーマンスがリアルタイムで反映されます。これは、評価が向上した社員に対して報酬を即時に反映させ、モチベーションの向上に繋がる利点があります。
2. 人件費のコントロールが容易
洗い替え方式により、企業は業績に応じて支給額を調整し、人件費を容易にコントロールできます。業績が下降しても昇給を制限することができ、これは経営上のリスクを減少させるのに役立ちます。
3. 成果重視の組織文化を醸成
給与が都度の評価に直接関連しているため、社員は成果を上げることが報酬に直結すると理解し、仕事に対するアプローチが成果主義にシフトします。この結果、組織全体のパフォーマンスの向上が見込まれます。
4. 公平性が高い
前年度の評価や支給額に影響されることなく、現時点のパフォーマンスを正確に評価することで、過去の評価の誤りや不公平を解消することが容易になります。これは、社員が評価制度をより信頼するようになる助けとなります。
5. 改善意欲を促進
評価結果が直ちに次回の給与に反映されるため、社員は改善への意欲を持ちやすいです。特に前回の評価が低かった社員は、次回の成果によって昇給が見込めるため、より積極的に仕事に取り組むようになります。
デメリット
1. 収入の不安定さ
洗い替え方式は都度の評価によって支給額が変動するため、社員の収入が不安定になることがあります。安定した給与を求める社員にとっては、これが不安要因となり、モチベーションの低下や退職のリスクを高める可能性があります。
2. 短期的な成果に偏るリスク
給与が評価結果に直接連動するシステムでは、社員が短期的な成果を優先する傾向があります。この結果、長期的な目標の達成やスキルの開発がおろそかにされ、組織の成長に影響を及ぼすことがあります。
3. 評価制度の負担が大きい
都度の評価を正確に実施するためには、明確な評価基準とフィードバックが必要ですが、これにより企業の評価業務の負担が増加します。特に、リソースが限られている中小企業では、評価制度の運用が困難になることがあります。
4. 社員間の競争激化
給与が評価に直結しているため、社員間での競争が激しくなることが予想されます。これは協調性やチームワークの低下を招き、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。過度な競争は組織の団結力を弱めることにもつながりかねません。
5. 評価基準の不透明さが問題化
頻繁な評価により、基準が不明確だと社員の不満が高まります。評価に納得できない社員が多くなると、制度への信頼性が低下し、結果として離職率が上がる恐れがあります。従って、明確かつ一貫性のある評価基準を設けることが極めて重要です。
賃金制度における積み上げ方式と洗い替え方式
両方の方式にはメリットがあり、企業の状況に応じた使い分けが求められます。一般的に推奨されるのは、基本給には積み上げ方式を用い、賞与には洗い替え方式を採用することです。これにより、基本給の安定を維持しつつ、業績や評価に基づいて賞与を柔軟に調整できるバランスの取れた方法を実現できます。
基本給にランクダウン方式を採用することは一般に推奨されていません。なぜなら、毎年高評価を受ける社員が昇給できない、あるいは給与が減少する可能性があるためです。たとえば、AからEまでの5段階評価システムがあり、Cが平均評価である場合、前年にA評価を受けた社員が翌年B評価を受けると、給与が減少します。これは、特に評価が高い社員にとって不利益となり、モチベーションの低下や優秀な人材の流出を招く可能性があります。
したがって、基本給には積み上げ方式を採用し安定性を保ちつつ、賞与には業績や評価に応じた調整が可能な洗い替え方式を導入します。これにより、社員の評価が明確に反映されると同時に、経営者は人件費を業績に合わせて効率的に管理することができます。
賃金制度を選ぶ際のポイント
経営者や人事担当者が賃金制度を選ぶ際には、企業の成長ステージや人材方針、そして業績との連動を十分に考慮する必要があります。
企業の成長ステージ
企業の成長段階に応じて、選ぶべき賃金制度も異なります。
成熟期・安定期
企業が成熟期に入ると、安定した運営が求められます。この段階では、積み上げ方式のような、長期的な視点での賃金制度が適しています。社員の経験や勤続年数が反映されるため、定着率の向上が期待でき、社員に安心感を提供できます。
スタートアップ期・成長期
この段階の企業は、急速な変化や成長に対応するため、柔軟な賃金制度が求められます。例えば、洗い替え方式を採用することで、社員の成果や貢献度を都度評価し、報酬に反映させることができます。これにより、優秀な社員を早期に評価し、モチベーションを高めることが可能です。
人材方針
企業の人材育成方針によっても、賃金制度の選択が異なります。
短期的な成果重視
一方、短期間での成果や目標達成を重視する場合には、洗い替え方式が適しています。成果や業績に応じて報酬が決まるため、社員は短期的な目標達成に集中しやすくなり、成果志向の文化を醸成できます。
長期的な人材育成
長期的な視点で人材を育成し、社員の定着を重視する場合には、積み上げ方式が有効です。この方式は、経験やスキルの向上が昇給に反映されるため、社員にとっても成長の実感が得やすく、企業側も人材の安定的な成長を支援できます。
業績との連動
業績の変動に応じて、賃金制度をどのように調整するかも重要なポイントです。
賞与に洗い替え方式
賞与部分に洗い替え方式を採用することで、企業の業績や個人の成果に応じた柔軟な調整が可能となります。これにより、業績が良い時には高い報酬を支給でき、業績が悪化した際にはコストを抑制することができるため、企業にとってもリスクを軽減できます。
基本給に積み上げ方式
基本給部分に積み上げ方式を採用することで、社員の経験や貢献度を長期的に反映することができます。これにより、社員の安定した収入が確保され、長期的なモチベーションの維持が期待できます。
まとめ
賃金制度の設計は、企業の経営方針や人材戦略に大きな影響を与えます。積み上げ方式と洗い替え方式の各特性を理解し、適切に活用することで、社員のモチベーションを保ちながら、企業の業績に合わせた柔軟な人件費の管理が可能になります。
この解説を参考に、ご自身の会社の賃金制度を見直し、最適な制度を導入してみてください。
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