【人事担当者必見】賃金制度のトレンドをおさえた手当見直しの実務ポイント

コンサル業務日報

はじめに

手当の見直しを進める場合、以下の観点から検討を進めることとなります。

今回は、各手当見直しの観点について、基本的な考え方やトレンドについて解説していきます。

キーワードは
職務系手当は、自己啓発を促す手段
属人系手当は、新卒、若手社員の採用力の強化手段

職務系手当について

職務系手当のメリット・デメリット

職務手当を設定するメリットとデメリットは下表のとおりまとめることができます。

メリットデメリット
柔軟な配置転換を促進し、適材適所の実現を支援する職務の範囲が明確でない場合、不公平感や不満が生じる可能性
同一労働同一賃金の原則に沿った公平な賃金体系を構築する    手当の設定基準が不透明な場合、内部コミュニケーションの問題を引き起こす
従業員のモチベーション向上とキャリア開発の支援適切な管理体制がないと、費用対効果が低下する恐れ

職務系手当の実務ポイント

役職手当

   役職手当を設定するときの注意点として主な点をまとめると、
   ・役割や職務、職責と比例した金額の設定とすること
   ・管理職と非管理職の逆転現象を回避する設定とすること
   があげられます。
   金額設定の妥当性を考慮する参考資料として、令和5年度TOKYOはたらくネットが公表している、各役職者の手当額は下表と通りとなっています。
   【調査産業計:中小企業の賃金・退職金事情調査】

役職最低額平均額最高額
部長職10,000円83,916円400,000円
課長職5,000円57,621円389,700円
係長職4,000円26,165円120,000円

職種手当

   職種手当を設定するときの注意点として主な点をまとめると、
   ・募集時の職種間賃金差を考慮して設定すること
   ・手当支給の基準(目的、対象、金額、期間)を明確に定め、準拠した支給をすること
   があげられます。
   金額設定の妥当性を考慮する参考資料として、各都道府県労働局から公表されている、「職業別求人・求職賃金状況」をおすすめします。
   本統計では、職種別に求人企業の賃金設定(下限と上限)と求職者の希望賃金が掲載されているため、自社の賃金設定の見直しをするには最適な情報となっています。

時間外見直し手当(固定残業代)

   固定残業代を設定するときの注意点として主な点をまとめると、
   ・三六協定で定める時間との整合性を確保すること
   ・実際の時間外手当が超過した場合は追加支給すること
   ・実際の時間外手当が下回った場合も減額はしないこと
   があげられます。
   支給基準の見直しとして、考慮している点は以下のような項目があります。
   ・時間管理や業務管理のルールも合わせて見直し、整備をする
   ・単純な手当減額とするだけでなく、上記 時間管理や業務管理の内容を考慮し減額幅を検討する

資格手当

   資格手当を設定するときの注意点として主な点をまとめると、
   ・手当支給の基準(対象、金額、支給条件、期間)を明確に定め、準拠した支給をすること
   ・報奨金や祝い金など、一時金としての急も考慮すること
   があげられます。
   支給基準の見直しに際して、考慮している点は以下のような項目があります。
   ・対象資格を活用する部署や職種に従事している期間を対象とする
   ・複数の支給対象者が存在する場合、管理責任者に任命された従業員を対象として支給する
   ・報奨金や一時金、資格取得支援など、手当以外の支給方法も考慮して検討する
 

属人系手当について

属人系手当のメリット・デメリット

職務手当を設定するメリットとデメリットは下表のとおりまとめることができます。

メリットデメリット
従業員の満足度と帰属意識の向上経済的負担の増加と経営コストの上昇
従業員の生活の質の向上とストレスの軽減不公平感の発生と職場内の不和の可能性
採用市場での競争力の向上と優秀な人材の確保手当の継続的な支給による財務的な依存関係の形成

属人系手当の実務ポイント

家族手当

   手当額設定の妥当性を考慮する参考資料として、令和5年度TOKYOはたらくネットが公表している、家族手当の情報は下表と通りとなっています。
   ・手当として支給をしている企業割合(45.2%)
   ・手当平均額(配偶者:10,914円 /第一子:5,884円 /第二子:5,191円 /第三子:5,160円)
   支給基準の見直しとして、考慮している点は以下のような項目があります。
   ・既存社員の年齢分布上、若手の採用、定着を重点課題とする場合、子供への支給拡大など対象と金額を見直し、整備をする
   また、家族手当とは支給条件が異なるが、各家庭の事情に応じて選択形式の育児補助制度を検討している事例も多々あります。
   例えば、子供の習い事に対する費用補助など、従業員だけでなく、家族からの会社に対する満足度を高める施策も考慮すると良いのではないでしょうか。

住宅手当

   手当額設定の妥当性を考慮する参考資料として、令和5年度TOKYOはたらくネットが公表している、住宅手当の情報は下表と通りとなっています。
   ・手当として支給をしている企業割合(35.2%)
   ・一律支給の場合 (平均:17,078円 /扶養家族あり:18,381円 /扶養家族なし15,723円)
   ・住宅形態別の場合;平均(平均:22,738円 /賃貸:24,425円 /持家:20,296円)
   ・住宅形態別の場合;扶養家族あり(平均:24,089円 /賃貸:25,667円 /持家:21,880円)
   ・住宅形態別の場合;扶養家族なし(平均:21,319円 /賃貸:23,156円 /持家:18,563円)
   支給基準の見直しとして、考慮している点は以下のような項目があります。
  ・新卒や若手人材の採用、定着を重点課題とする場合、転居や単身手当などを考慮し、手当の支給対象の見直しを検討する

その他 採用を意識した手当設定

   家族手当や住宅手当以外にも、生活保障の一環として、様々な手当を検討し、導入されています。
   新卒採用や若手人材の採用を強化するために以下のような手当を新設され、支給されている会社があります。
    ・奨学金返済の一部を会社が負担する手当(支給対象や期間、条件を考慮)
    ・入社時に転居や一人暮らしをする際に家賃の一部を会社が負担する手当
   その他にも、通勤手当の支給距離や上限金額の見直しなど入社を後押しする施策として手当を検討されると良いのではないでしょうか。
   奨学金返済の一部負担を検討する場合、独立行政法人日本学生支援機構の「企業の奨学金返還支援(代理返還)制度」を検討してみるのも良いのではないでしょうか。
   【企業の奨学金返還支援(代理返還)制度はこちらから

手当見直しのポイントまとめ

手当の見直しをするときのポイントは
異動や人材登用を柔軟に行える施策となること
・従業員のキャリアアップに対する意欲を喚起する施策となること
専門職(看護師や整備士など)に対しては手当として見える化すること
・物価の高騰など市場環境の変化に対して柔軟に対応することのできる施策とすること
経営課題に対して期間限定や手当額の変動など臨機応変に策を講じることのできる施策とすること
・従業員にとってシンプルで分かりやすい基準であること
すべての従業員を対象とし、公平な仕組みとすること
支給基準は厳守し、例外を設けない(例外ではなく手当の支給基準を見直す、手当を新設する)こと

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投稿者プロフィール

猪基史
猪基史
アパレル会社勤務後、2000年、中小企業診断士資格取得と同時にコンサルタント会社に転職。営業(販促)支援、個別対応型管理者育成、業績管理制度構築・運用といった現場実戦型コンサルティングを中心に中小企業の支援を行う。その活動の中、経営者の方針=想いを実現させるためには従業員がやりがいを持って働ける環境を整備することが不可欠であると痛感し、会社と社員が共存共栄の関係を築ける「人事制度改革」に特化した中小企業支援を自らの専門領域として確立する。